お店レビュー Le Petit Sommelier 使い勝手抜群のハイブリッド・レストラン |
こんにちは!高崎です。
毎度ご無沙汰の更新ですね~。気楽ブログもすっかり板についてきました…なーんて。
今日のお店レビューはニューオープンではないのですが、
わたくし的にとっても嬉しい発見でありました。
もうねー、こんなお店が欲しかった!
なんという使い勝手のよさ、そしてお味の確かさ。
こんな手のかかるやり方を誠実に選んでくれて、オーナーさんありがとう!!
と、思わず合掌ものの食後感だったのですよー。
Le Petit Sommelier
49, avenue du Maine
75014 Paris
http://www.lepetitsommelier.paris
このお店、今回は友人の紹介で行ってきたのですが、
それまで何度も前を通りかかっても、一度も入ったことのなかったのです。
古き良きアールヌーヴォーな外観、朝8時から夜23時まで終日営業、しかもターミナル駅のすぐ横の立地。てことは、よくあるテキトウな駅近ブラッスリーなのかな…なんて。
ところが!それは大いなる勘違いだったのであります!ごめんなさい!
いえね、内装は駅近ブラッスリーのまんまなんですよ。
だから入店の第1印象は、「あ、そう?ここが…?」だったんです。
でもそれ以外のすべてが、まったく違う。
まず客層。体格の良いボンヴィヴァン(飲む食う遊ぶの人生満喫型人間)な紳士がわさわさ、昼も早よからワインボトルを開けまくっています。
パリの良いレストランには必ずいる、このおじさんたち…。これは良いサインです!
俄然高まる期待を胸にメニューを開くと、2本立ての構成です。
左側がいわゆる「ビストロメニュー」で、アントルコート(リブロース)のステーキやフォアグラなど、ザ・定番料理が並んでいます。
右側は前菜メインデザート35ユーロのコース形式の「レストランメニュー」で、季節感あふれる素材の、より手の込んだお料理の名前がずらずら。プリフィクスコースとはいえ、掲載料理はアラカルトでも注文可能という柔軟なシステムも嬉しい。プリフィクスコース外には特別料理の別枠「食いしん坊のたっぷり料理」コーナーがあり、青首鴨とヤマウズラのピティヴィス(パイ包み)なんてのも!
私たちは右ページのお料理をいろいろお願いし、みんなで味見し合う作戦に出ました。
その合間に、厚さ5センチはあろうかというワインリストが届きます。
表紙には「ワイン・スペクテイター」の表彰マークがズラーッと。
このお店はその名の通り(「小さなソムリエ」)ワインで有名なお店で、
フランスを中心にドイツ、オーストリアなどの欧州ワインも加えて、
750者銘柄が揃っているのですって。
日本でも大人気のセロスのシャンパーニュが5、6種類並んでますよー!
どれもこれも、もー本当にスパッと疑いようのない「フレンチの味」です。
素材の風味が酸味と塩味の額にカチッと縁取られて強調され、
何を食べているのかが明確に印象に残るもの。
しかも「これは絶対に家では作れないわ」という手のかけ方や味のバランス取りが、
こちらも分かりやすく納得のいく形で見える。
おまけに味わいが軽快で、するすると最後まで飽きずに食べられる。
…と書くと数行ですが、美食の都パリとはいえ、これらのバランスが感心するほど
取れているお料理には、なかなかお目にかかれないものなのですよー。
これは古典料理をしっかり学んだのち、現代的なガストロノミーで経験を積んだ腕の持ち主の仕業に違いない…と話していたら、ビンゴ!
シェフのニコラ・ブリエさんは高級ホテルでMOF料理人の元研鑽を積んだ後、三ツ星シェフ クリスチャン・ルスケールさんのセカンドレストラン「etc…」にいた方だそうな。
やっぱり古典とガストロノミーをしっかりやってきた人は、土台が違うんだよなぁ。
お料理、写真でご紹介しましょう。
前菜「タイのタルタル、ビーツのエマルジョンときゅうりのミルク仕立て」
ビーツのエマルジョンの酸味がお魚にスキッと絡んだと思ったら、カレー風味のきゅうりのソースが全体を丸く収めてくれる、快適なお料理。これはいいわ~。おかわり欲しいわ!
前菜「サバの24時間マリネ、セロリレムラード、グラニースミスのエマルジョン」
これ、ガストロノミックな味の作り方でびっくりした一品です。正しいサバの美味しさを引き出し、マスタードを効かせたレムラードと食べ、りんごでお口さっぱり。横に並んでいる薄茶色の粒丸は薬味的なサブソース(モーのマスタードとバルサミコ酢)ですが、これが不思議な、海産物の肝っぽい濃縮風味。しかもすごく美味。どうやって作ってるんだろう? 一瞬、シェフの元親分・ルスケールさんの海のお料理の味わいを彷彿とさせます。
メイン「帆立貝の黄金焼き、潰し菊芋、栗とフォアグラのソース」
しっかり黄金の焼き加減です。今、パリのレストランのホタテは「Nacre=貝殻の裏面のような、うっすら虹色の反射光が浮き出る半生の焼き加減」が定番なのですが、私は表面のカリっと香ばしい部分が好き派なので(メイラード反応万歳!!!!)、このくらいの焼きが嬉しくてたまりませんでした。
栗とフォアグラの組み合わせも「これぞ」という、ポクポクと温まる冬の味わい。
メイン「青首鴨とヤマウズラのピティヴィエ」。4人で分けっこしたので、1/4サイズです。
出ました~~!ジビエの古典料理の名作です!これが食べられるところ、なかなか少ないのですよね~。しかもシェフはピティヴィエの名手エリック・ブリファール氏(MOF!)の薫陶を受けているので安心!文句なしに端正で、真正面の古典料理でした。ヤマウズラのガラソースも、ジビエまっしぐらな風味です。
デザートはもちろんスイーツの相棒、三富さんにレビューをお任せしませう!
なんだか思いの外すごくおいしいもの食べちゃったわ…と思って顔を上げると、そこは体格の良いおっちゃん(自営業ネクタイ族系ね)が、ガシガシステーキ肉を喰らうの図。
ビストロとワインバーとレストランが組み合わさった、なんとも不思議なバランスのハイブリッドぶりです。
その上この満足度で、コースの値段は35ユーロ。ビストロメニューの方は、一皿15ユーロ以下のメインも普通にあります。なんちゅうリーズナブル。
しかもご飯は11時から23時までのぶっ通し営業です。コアタイム以外は短縮メニューになるよねさすがに、と思いきや、いえいえ、厨房スタッフを2シフト制にして、いつでも2本立てメニューで食事ができるですって。
おまけに食材もいいものより抜きで、お肉は話題のメツゲールから仕入れ、チーズはMOF、エトセトラ。
なんなのこの営業努力…!
今時のパリの高感度レストラン(書いててため息)には、昼夜とも1時間半の間しかオーダーを取らず、しかもおまかせコース一本、てなお店が多いというのに!
時代に真っ向勝負を挑むような、客には嬉しいけれど経営者には多大な努力を強いるこのスタイルを実践しているのは、弱冠28歳の若きオーナー氏、ピエール・ヴィラ・パレヤさんです。
父母が経営していたお店を昨年継ぎ、新しいシェフを招いて、15年10月からメニューを刷新。ご本人はパラス級ホテルで研鑽を積んだソムリエで、MOFに挑戦した際は最終試験まで残ったという、ワインの俊英でもあります。
「親から店を継いだ時、更に進化させたいと思ったんです。ワインを飲むために食べる料理だけを出すのではなく、料理そのものが上質で、それを楽しみに来るお店にもしたい。でも価格帯は変えず、しかもお腹いっぱいになるように。僕自身体が大きいので、レストランから出てまだお腹が空いている、という事態が堪えられないんです。それをすべていっぺんに叶えるのが、二本立てのメニュー構成でした。ブラッスリーの内装で今日的な料理が出るというギャップも、狙ってやっているんですよ。ワインの方は、有名な作り手をその一番手頃なキュヴェから知ってもらう、というやり方で、そのために、25種類のグラスワインを用意してます。美味しいものが適正価格で適正量で出る、本当のレストランをやりたいんです」
その言やよし!
モンパルナスでお腹が空いたら、悩まずここにレッツゴーだわ!
次はアントルコットのステーキを一皿主義で食べに参りますよ!
(…と舌の根の乾かぬうちに、やっぱりあの繊細なタルタルの前菜も食べたいな…だって9.50ユーロだし…)